人魚のはなし

人魚のはなし

495円(税込)

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その街の印象は灰色だった。

新書判/62頁(表紙含)/化粧紙付
民話や伝承をモチーフとした幻想短編集です。


いつともしれないそのとき、どこともしれないその土地。
うつくしい人魚と船乗りが、しあわせに暮らしておりました。
泡と消えない人魚、妖精に愛された詩人、約束に喰らわれた学者。
舞台は灰色の街。すべてがつながる4つの幻想物語。


【目次(収録短編)】
「人魚のはなし」
「詩人のはなし」
「学者のはなし」
「書店のはなし」


【Sample1(「人魚のはなし」本文抜粋)】
 ランプのように籠を提げ、先を歩く小男を、立ちあがった若者はよろめきながら追いかける。松明でもカンテラでもない光が、潮騒に溺れる夜道を仄かに照らし出していた。追いついてきた若者の問いかけるような眼に気づき、小男はからかうように唇を歪める。
「海に漂うものを蒐集するのが趣味でね」
「海に漂うもの?」
「たとえば、難破船から漂ってきた魂、だな」
 若者が身を強張らせた。小男は豪快に笑ってみせる。
「冗談だよ」
 海原を駆けてきた潮風が、鮮やかな朱の髪を掻き回した。

【Sample2(「詩人のはなし」抜粋本文)】
 その街の印象は灰色だった。
 透きとおっているわけでもなく、霞んでいるわけでもない。曇っているわけでもなく、ぼやけているわけでもない。透明度はひどく高く、彩度だけがひどく低い。そんな灰色が、晴れていても曇っていても、その街を覆っていた。
 私がその街を訪れたのは、春のはじまる、薄ぼんやりとした日のことだ。その街で仕事を見つけたから、その街に住んだ方が何かと都合がいいだろうと思った。それだけのことだ。だから、私は手頃な物件を求めて不動産屋の扉を叩き、こちらの条件を並べ、独身男性の住居に適した部屋の候補を挙げてもらい、では内覧を、という流れで、とある物件に赴くこととなった。
 車の助手席から、私は流れてゆく街並みを見る。ハンドルを握る不動産屋は、中年で、小太りな、青灰の目を持つ男だった。
 この街に住んでしばらく経った今だから言えることだが、不動産屋の目に凝っていた色は、街を包みこむ彩りそのものだった。街にとって、海は近しい位置にあったが、波音が聞こえるほどではなかった。時折、湿った風が潮の香を運んでくるが、街にとって、海とはその程度のものだった。それでも、天候に関係なく、街を覆う色彩が薄ぼんやりとしているのは、多分に海の影響ではあった。大気の中を歩いているにもかかわらず、水の底を泳いでいるように錯覚させるだけの潤いを、海は街にもたらしていた。

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6冊
初回発売日 2014.09.21
最終納品日 2022.09.02

手品師と人魚

手品師と人魚

とある海辺の街の、とある祝祭。星空のような目のものは、人魚に出会った。好奇心に目を輝かせる相手に、人魚は驚き、辟易する。そんな人魚にかまうことなく、星空のような目のものは見えるはずのない人魚とおしゃべりをはじめた。(表題「手品師と人魚」) ほか、駅のホームでの遅延時間に偶々隣に居合わせたひとの語り。パンケーキのぷつぷつに怯えることへの対処法など。『人魚のはなし』『道化と偽王』と同一世界観の、そこにいるかもしれないし、いないかもしれない、ゆるやかに降りつもる日々をあつめました。

人魚のはなし

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作家

南風野さきは

南風野さきは

はえのさきは / 片足靴屋/Sheaghsidhe

No.412


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