空の鯨
古月玲
400円
購入可
600円(税込)
ぼくたちの足跡だって、きっと残らないよ。
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水族館を出ても海の匂いがした。
この海にも、くらげはいるのかな。
少し海岸の近くへ行って、背伸びをして、海を見てみるけれど、くらげは見えない。
アキも海の方を見てる。アキの目はいつもどこか遠くを見てる。
ぼくはアキが見ているものを知りたかったけれど、ぼくにはアキが海のそばにいるのか海の中にいるのかさえわからない。
海を、夏を、夜を、揺蕩う少年たちの三つの会話からなる「くらげのあしあと」
その町は海の底にあった。
――海底の町でひとり暮らす青年と、そこへやってきた同い年の青年のお話「鯨のあとに」
カーは、ひとりでいることを選んでいるんだ。
世界で自分はひとりって顔をして。
これは悲しみだろうか怒りだろうか同情だろうか。どれとも似ているようで、どれとも違う。わっとせり上がってきた感情のまま手を伸ばしそうになって、すんでのところで思い留まる。
もしも手を伸ばしたら、もしも触れたら、……どうなるだろう?