恋愛短編小説集「戀」

雨庭 有沙
550円
購入可
440円(税込)
おかえりなさいませ、ご主人様。メイド喫茶「アヤカシ」へようこそ。こちらのお店では様々な怪異をご紹介させていただいております。
チャージ0円、ドリンクは600円から。あとはほんの少し、この子に生気を吸わせてやってくださいませ。……いえいえ、案ずることはございません。あなたが私の話を聞いてくださっている間に済むくらいには痛みも痒みもないものです。どうぞ、ご安心なさってください。
……え? この耳、ですか。カチューシャに見えますか?
ふふ。よく言われます。これ、自前なんですよ。……手作りではなく、自前。お見送りの際には、本当のことをお話しいたしましょう。ええ、お約束いたします。
では、メニューでございます。
真夜中、狐の嫁入り
連れて帰った黒い影
冷蔵庫の上に居るモノ
鳥取県、もののけの話
蝋燭の灯火が丸くなる刻
ざわめくドレスの影
「入るな」という呪文
……あら、全部聞きたくて?
変わったご主人様ですこと。いえ、喜んで承ります。
紅茶はアッサムでよろしいですか?
ええ。ご主人様はミルクティーがお好きと、存じておりますので。
どうしてって? さぁ、どうしてでしょうね。
では、始めてまいります。
タンガンちゃん、蝋燭に灯りをともして頂戴ね。そう、上手よ。
真夜中、狐の嫁入り
その時、その子は金縛りに遭いました。真夜中です。両親と川の字で寝ていた頃から自室のベッドで独りで寝るようになった頃。金縛りって、筋肉の痙攣と脳の錯覚だとか言うでしょう。その子も最初はそう思っていたそうなの。ですが、どうやら違うことに気がついたそうです。