幻想小説集 エクピュローシス/太陽の残り滓
海崎たま
650円
購入可
550円(税込)
A5判 中綴じ 40ページ
1989年高円寺、失踪したギタリスト・ファングを探して、
ベーシストのヒサシは「十字路の伝説」に潜む悪魔と対峙する。
バンドマンの友情と才能、青春の終わりを描いた、架空のロックバンドの伝奇小説。
2024.5.19 初版発行
本作はサイトで連載している架空のロックバンドの小説シリーズ『Drive to Pluto』の関連作品です。
サイトの小説や、SNSに掲載しているイラストをご覧いただくとより楽しめます。
(書籍末尾に案内あり)
『Drive to Pluto』
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キャラクターデザイン、イラスト等をSNSで掲載しています。
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ロバート・ジョンソンは1930年に十字路で悪魔に魂を売り渡してブルース・ギターのテクニックを手に入れた。彼は契約の代償に27歳での死を運命づけられた。『クロス・ロード・ブルース』という歌が悪魔との出会いを自白していると囁かれている。
そんなのは全部嘘で、本当はその10年前にトミー・ジョンソンという同じ苗字の別のブルース・シンガーが自分自身の歌に箔をつけるために悪魔と契約したと吹聴して回ったんだ。彼は交差点で悪魔から才能を受け取ったと嘯いた。
「真夜中の交差点にギターを持ってひとりで立て。すると暗がりから黒い大男が現れて、魔法の力をもってお前のギターをチューニングするだろう。」
そんなのは全部嘘で、悪魔と最初に契約したミュージシャンはパガニーニだった。
そんなのは全部嘘だ。
ロバート・ジョンソンだかトミー・ジョンソンだかは2年の間行方をくらまし、帰ってきたときにはギターがものすごく上達していた。それは悪魔に魂を売ったからだ。周りの人はみんな信じた。
そんなのは全部嘘で、2年も特訓すればギターの腕は上達するものだ。
ロバート・ジョンソンが悪魔崇拝に傾倒したという記録は存在しない。
だが人々は十字路に立って中身のない伝説を囁き続けた。
噂話は十字路に沿って大陸を超えて四方へ旅立った。
悪魔の名前はサタンでもロノウェでもなく、もとはハイチのブードゥーの神パパ・レグバという名前だった。それはそもそも悪魔ではなく、アフリカから奴隷として連れて来られた人々に憑いていたアフリカ大陸に住まう古い精霊だった。
だが伝説だけが十字路で囁かれ、北アメリカとユーラシア大陸中の戦火を幾度も逃れながら世界中の交差点を点々と伝って伝説が極東の島国の首都に辿り着いたときには、神だか精霊だか悪魔だかの名前も、27歳で死んだギタリストの名前も、肌の色も真実も旅路のどこかで落としてしまって、
伝説の抜け殻だけがあとに残った。
ブルースの魂がフォークと出会いロックンロールが産声を上げてその血潮がレコードショップの店頭で細分化されたジャンルに溶けて流れ去ったいまとなっても、
伝説の抜け殻だけが魂を求めて十字路に立っている。
ファング:バンドのボーカル・ギタリスト。27歳。
流しのシンガーソングライターで、アパートの家賃を滞納している。
サイケデリックフォークが好き。
好きなアルバムはニック・ドレイクの『Five Leaves Left』
ヒサシ:バンドのベーシスト。27歳。
TVCM制作会社で働いている。
スラッシュメタル、ハードコアが好き。
好きなアルバムはメガデスの『Peace Sells... But Who's Buying?』
謙太:バンドのドラマー。25歳。
高円寺の(架空の)ライブハウス〈コールサック〉のアルバイト。
オルタナ、ミクスチャーが好き。
好きなアルバムはリプレイスメンツの『Let It Be』