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道化と偽王

486円(税込)

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新書判/66頁(表紙含)/化粧紙付
伝承や神話をモチーフとした幻想短編集です。


いつともしれないそのとき、どこともしれないその土地。
祝祭の夜に見つけた幼子は、母をもとめて彷徨っていた。
泣きやまない幼子、亡霊に手招かれた子供、銀皿に王冠を供して祝祭をころがす道化。
舞台は青灰の街。廻る4つの幻想物語。


【目次(収録短編)】
「落涙と非番」
「異装と亡霊」
「道化と偽王」
「真珠」


【Sample1(「落涙と非番」本文抜粋)】
 街を囲むように蛇行する川は、夜そのものの色をして、弾き返した街の灯で着飾っていた。ゆるやかな流れに瞬く灯火は、漣に明滅する艶として、夜と融けた川面でさざめいていた。煌きが遊ぶ表層は、川には深さがあるということを、見る者の印象から忘却させる。平坦な面に飛び交う光は星座図のようで、昇りかけの月は欠けゆく姿の写し身を川面に落としている。さざめきに歪められた月光は砕けて散じ、街の灯の反射と混じり合い、無数の光の欠片となって、はしゃぐように踊っていた。
 水面の弾く街の灯が、ひとつ、またひとつと消えていく。祝祭は終わったのだ。人々は明日に備えて眠りに就かねばならない。ゆったりとした流れで遊ぶ光が、ひとつ、またひとつと消えていく。街を満たすのは静けさだ。さっきまでの騒がしさはどこにもない。川面でゆらめくものが月光だけになった頃、水の中、上流から流れてくる炎があった。遠目であることを差し引いても炎は人のかたちをしていて、平坦でしかなかった水流には奥行きがあることを、水底があることを、俺に思い出させた。炎でできた頭と胴と四肢が、透きとおった水の流れを蓋として、浮き上がることも沈むこともなく流れてくる。泰然と流れてくるひとがたの炎は、近づいてくるにつれ、その巨大さを誇示してきた。
 水中で燃え続けているのは、松脂に浸した木材と藁で組み上げられた、巨大な人形だ。祝祭のたびに人形はつくられ、燃やされて、流されていく。

 あの時、俺が川沿いの倉庫街にいたのは偶然でしかないし、だからこそ、水に放り投げられてからは見向きもされない祝祭の残滓のようなそれを、まじまじと見ることができた。

 いつになく機嫌が悪いって? あのなぁ、このところ忙しかったせいで無理に取らされたたまの非番にこれだぞ。しかも聴取される側だ。不機嫌にならずにいられるか。ああ、そんな顔をするな。何があったのかはきちんと話すさ。
 ええと、どこから話をしたものかな。


【Sample2(「道化と偽王」本文抜粋)】
 大地そのものである枯れ草と土を鎖した氷が、やわらかな陽に煌いていた。乾いた空は晴れ渡り、澄んだ薄青が淡い陽を揺籃している。荒野を走る石畳の道は、ゆるやかな傾斜をもって低地へと繋がり、蛇行する川に抱かれた街へと続いていた。
 街を見下ろす荒野の道は、過ぎ去った時代の服飾と色彩で溢れている。道に並んだ楽隊は勿論のこと、豪奢な衣装と仮面で日常を塗り潰した街の住人と見物客が、道の両端でざわついていた。
 頬を刺すような冷気のなかで、すべての季節を集めたかのような果実と穀物とを積んだ曳き車の中央にある高い背凭れの椅子に、大仰に脚を組んで、顔の上半分を黒の仮面で覆った道化が腰掛けている。葡萄や麦の穂の隙間を飾る白と黄の花冠は、稔りの海に散らばった宝石のようであり、道化の纏う夜のような黒を映えさせた。終わった季節の収穫であり、これからの豊穣の先取りでもある稔りに埋もれて、白手袋の指先をもって、道化は懐中時計の文字盤を撫でた。仮面の奥にある星屑のような黒の目が、廻る秒針を眺めている。時計の針がある時刻を廻ったその時、道化は懐中時計の蓋を閉め、空高く放り投げた。装いのそこここに縫いつけられている鈴が、涼やかな音を奏でる。道化は片手で果実の山に挿していた杖を引き抜き、片手で椅子の肘掛けを掴み、踵のない靴の裏を空に晒して跳躍した。懐中時計は座る者のいなくなった椅子に落下し、中空で身を一転させた道化は楽隊の前へと着地する。一筋だけやや長い漆黒の髪を鳥の尾のように靡かせて降り立った道化の、白皙の肌に筋引かれた蒼の唇が吊りあがる。
「昼における理の瑕疵は、夜における奏上の糸口」
 男のものとしては高く女のものとしては低いすべらかな声音が、鈴の残響に重なりながら蒼の唇から流れ出す。
 しなやかな反転をもって、道化は街へと歩を向けた。
 川を縁として隆起したような地勢の街は、高地のところどころに針葉の緑を茂らせている。青灰とも白ともつかない石材で造られている街並みの、川に沿って湾曲した丘に重なるように、尖塔と天穹の先端が突き出ていた。天を掴もうとしているかのような街の中心となる建造物を、道化は杖で指し示す。
「では、祝祭の幕をあけようか」

詳細情報

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初回発売日 2016.06.12
最終納品日 2016.05.15

道化と偽王

道化と偽王

いつともしれないそのとき、どこともしれないその土地。祝祭の夜に見つけた幼子は、母をもとめて彷徨っていた。
泣きやまない幼子を見つけた男の祝祭、亡霊に手招かれる異装の子供、日々を放逐した街と銀皿に供された王冠(表題「道化と偽王」)。飛び石の刻、廻る祝祭。青灰の街を舞台に織り成す四つの物語。あわいに浮かぶ幻想を連ねた短編集。


新書判/66頁(表紙含)/化粧紙付

486円(税込)

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作家

南風野さきは

南風野さきは

はえのさきは / 片足靴屋/Sheaghsidhe

No.412


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